第13回 東邦ピアノセミナー報告

第13回 東邦ピアノセミナー報告

第13回東邦ピアノセミナーが7月28日(日)、東邦音楽大学文京キャンパスで開催されました。ピアノ指導者、音楽関係者、卒業生など76名が参加し、2つの講座および、個人レッスンが実施されました。講座の内容は以下の通りです。

■講座1 「心に響く演奏表現をめざして~表現を高めるためのテクニック・その2」
講師:國谷尊之先生[東邦音楽大学・東邦音楽短期大学教授]

講座はどちらもピアノの指導や演奏に実践的に役立つものである。講座1は國谷尊之氏による『心に響く演奏表現をめざして~表現を高めるためのテクニック・その2』。昨年、東邦音楽大学にて作成された教本『表現を高めるための毎日のピアノエクササイズ』を基に行われた大場文恵氏による講座に続くものであるが、前半は「ピアノの奏法と教育法の歴史的経緯」と題して、ピアノという楽器の改良の歴史と、現代のピアノ奏法・教育法のつながりを解説。
 まずピアノ以前の鍵盤楽器として、チェンバロとクラヴィコードが紹介され、後者は弦を金属板で叩くというピアノと同じ発音構造により、多様な音色、音量の変化が可能だったと説明。東邦音楽大学所有の貴重なクラヴィコードが実際に演奏された。しかしホールの空調を切り、耳を澄ませても聞こえるか聞こえないかという音量。この音量の問題の解決こそが、ピアノ登場のきっかけだった。
 産業革命をきっかけとした市民革命、それによる音楽の変化とピアノの改良を関連付けながら進められる話は、非常に興味をそそられるものだった。そして音量と音域を増したピアノは、奏者に以前よりもはるかに強いタッチを要求するようになる。それを克服するため、無理のある機械的な訓練のみを繰り返すことではなく、自然な手の形を生かして曲を弾くことや、指の力だけでない腕や全身の運動による打鍵を追求することが、現代のピアノ奏法へとつながった。
 これを踏まえて講座後半では、実際に前述の教本を解説。近年まで日本で常識とされていた練習法・教育法に誤っている部分も多いこと、そしてエクササイズの意味を十分に理解して行なうことの重要性について、深く納得できたのだった。

■講座2 『モーツァルトのピアノ・ソナタ解釈と演奏法』
講師:浦川 玲子先生[東邦音楽大学・東邦音楽短期大学専任講師]

講座2は浦川玲子氏による『モーツァルトのピアノ・ソナタ解釈と演奏法』。第7番(KV309)、第8番(KV311)、第9番(KV310)の楽譜を見ながら、それぞれの曲の構成、成立過程、テンポ、動機の展開、装飾音、アーティキュレーションなど様々な面から曲の理解を深め、それを演奏につなげていくのが狙い。
 中でも迷うことの多い装飾音の弾き方については、「アルペッジョ」「アポジャトゥーラ」「トリル」に分類して、実際の楽譜に当てはめながら解説を加えていった。アルペッジョやアポジャトゥーラは頭で合わせる、トリルは上の音からなどの原則はあるが、前後の関係性や右手と左手の関係などを考えて、どう弾くかを決めることが重要であるということがわかる。トリルだけを見ても、後打音を付けるのが当時の習慣であるが旋律優先で付けない場合、上の音からかけるのが原則だが、旋律をじゃましないように下の音からかける場合、またターンで処理する場合など、実際に楽譜を見ながら説明されることで理解が深まる。
このように当時の演奏習慣を知り、曲の作りを理解することで、より自然に、迷いなく弾けるようになり、それがより良い演奏につながるということを実感したのだった。

(文=今泉晃一)

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