教育理念

音楽芸術研鑽の一貫教育を通じ、情操豊かな人格の形成を目途とする

Ⅰ.学校法人三室戸学園の「建学の精神」、使命・目的及び大学の個性・特色等

  1. 学校法人三室戸学園の建学の精神及び学園の沿革
    学校法人三室戸学園(以下「本学園」という。)は、学祖三室戸敬光が昭和9(1934)年11月、東京高等音楽学院学院長在職中に私財を投じて「東京高等音楽学院大塚分教場」を開設し、昭和13(1938)年2月に三室戸為光がこれを継承し、東京都文京区に分離独立の上、「東邦音楽学校」と改称し、昼夜二部制の音楽理論と実技の授業を行う全国最初の学校としてスタートした時に始まる。 昭和22(1947)年に東邦中学校(男女共学)を開学、翌年には東邦高等学校を開学し、普通科に加え、全国初となる音楽科を開設した。また、昭和26(1951)年に東邦音楽短期大学(音楽科)を開学、昭和38(1963)年に埼玉県川越市今泉に川越キャンパスを整備し、東邦第二高等学校(普通科・女子)を開学した。なお、同高等学校は、昭和44(1969)年に普通科を音楽科に改め、平成15(2003)年に男女共学制に移行している。また、昭和40(1965)年に川越キャンパスに東邦音楽大学(音楽学部音楽学科)を開学し、平成13(2001)年には東邦中学校、東邦高等学校、東邦第二高等学校を大学の附属学校とした。さらに、平成16(2004)年に東邦音楽大学大学院(音楽研究科修士課程)を開設した。 創設以来、80有余年にわたり「音楽芸術研鑽の一貫教育を通じ、情操豊かな人格形成を目途とする」ことを建学の精神として掲げ、伝統ある音楽大学にふさわしい教育・研究環境を整備して、中学校から大学・大学院までの音楽における一貫教育を実践し、内外に誇れる音楽教育のための学園として発展し、今日に至っている。
  2. 学校法人三室戸学園の使命・目的
    本学園は、建学の精神の下、「文化国家の形成者にふさわしい音楽を身に付けた文化人として有能なる音楽家及び音楽教員を育成するとともに、幅広い教育を通してバランスのとれた心豊かな人間を育て、社会のニーズに応え活躍できる優れた人材を送り出す」という使命・目的をもって教育を行っている。 また、東邦音楽大学(以下「本学」という。)は、大学としての使命・目的を達成するため、中学校から大学院までの一貫教育体制の下での教育方針に加え、大学における教育方針を基に、次の4つの基本方針を掲げて教育研究及び社会貢献活動を積極的に推進している。
    ①一貫教育の実践、②少人数制の教育、③国際化(交流)の推進、④地域社会との交流
  3. 東邦音楽大学の個性・特色等
    (1)4つの基本方針に沿った活動
    本学は、4つの基本方針に沿って、音楽教育研究の質的向上とそのための教育環境整備や社会貢献活動を推進しつつ、時代の変化にも対応できる体制づくりに努め、国内外で活躍できる音楽人を育成しながら社会の理解と支持が得られる大学像を追求している。
    ① 一貫教育の実践
    附属の中学校、高等学校、第二高等学校、短大、大学、大学院まで一体となって音楽教育を中心とした教育活動並びに人間形成に努めている。そのために、附属校のカリキュラム編成においては、附属校から大学院までの教員が相互に連携しながら取り組んでいる。
     また、実技指導については、大学の専攻主任と附属校の教員が協働、連携しながら行っている。
    ② 少人数制の教育
     本学の特長である一人ひとりの学生の個に応じた教育を確実かつ誠実に実施するための「One to One」の教育指導体制としている。
     音楽という極めて専門性の高い要求に応えるため、個人又は小編成での教育を実践している。特に、専門実技、副科実技に関しては、マンツーマンの指導の下、それぞれの学生の個性と能力に応じたきめの細かい指導を実践している。
     第1年次から第4年次まで各学年ともクラス担任制を導入しており、それぞれのクラス担任が担当している必修授業「東邦スタンダード」においては、学年に応じて大学での履修の仕方から学生生活、さらには卒業後の進路等について指導を行っている。また、クラス担任においては専攻を越えた様々な問題に対しても指導等を行っている。
    ③ 国際化(交流)の推進
    ⅰ 学部生(3年次生)及び大学院生(1年次生)を対象に「ウィーン研修」を必修授業として実施
    平成3(1991)年から実施している「ウィーン研修」は、西洋音楽の基幹をなすと言われるオーストリアのウィーンに設置している本学の海外研修施設「東邦ウィーンアカデミー」において参加学生全員が共同生活をしながら、ウィーン国立音楽大学の教授、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の奏者等から直接レッスン指導や講義を受けるもので、学生にとって音楽の都ウィーンにおいて直に外国の文化に触れる貴重な経験であり、重要な教育活動となっている。大学生は、3年次必修科目として設定、短大生は2年次選択科目にそれぞれ短期留学研修として設定している。また、Konzertfach(演奏専攻)においては、1年から4年まで毎年2回(4年間で8回)ウィーンに赴き、同施設においてウィーン国立音楽大学の教授、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の奏者等からレッスン指導等を受けている。
    ⅱ 学部生(第4年次生)全員参加による海外演奏旅行の実践
    新型コロナウイルス感染症拡大の影響により令和2年度から海外での演奏旅行は実践出来ない状況にあるが、主としてヨーロッパを約1週間訪問し、現地のコンサート会場や音楽ホールにおいて演奏を行い、日本の音楽の演奏を海外へ紹介するとともに、現地の人々との異文化交流を行っている。なお、学生が直に海外の文化に触れ、現地の音楽家や演奏家と交流することは、学生たちにとって貴重な国際交流の機会となっている。
    ⅲ 東邦ウィーンアカデミー教授陣(ウィーン国立音楽大学教員、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団奏者)の招聘等
    ウィーン国立音楽大学の教授及びウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の奏者を本学に招聘し、学生等に対して公開レッスン、公開講座等を開催している。
    ④ 地域社会との交流(地域社会への貢献)
     文京区及び川越市内にキャンパスを持つ音楽系大学として、地域の方々に親しみをもって音楽を楽しんでいただくことを目的に、毎年、教員及び学生による演奏会・コンサート等を実施しており、地域社会における音楽文化の向上に寄与している。特に、病院や福祉施設等におけるボランティアコンサートは、長年にわたって継続して実施しており、中でも260回を超える演奏活動を行っている大塚病院院内ミニコンサートはボランティア演奏としての活動が受け入れられ病院から感謝状が授与されている。
     平成20(2008)年から東京都文京区と相互協力協定するとともに、平成22(2010)年からは埼玉県ふじみ野市との基本協定に基づき、毎年、ふじみ野市立小・中学校の生徒を対象に「音楽鑑賞教室」を開催している。
     地域の自治体や企業等と連携し、互いに協力して地域社会が抱える諸課題の解決及び高等教育による地域の活性化を図ることを目的とした、埼玉県の東武東上線沿線及び西武・線の大学(本学を含め19大学)で構成する「埼玉東上地域大学教育プラットフォーム(TJUP)」に参加し、連携協定を平成30(2018)年8月に締結した。本学は、これら活動を通じて地域社会との連携の強化を図ることとしている。
     平成31(2019)年1月、埼玉県和光市及び公益財団法人和光市文化振興公社と本学による相互協力協定を締結し、相互の人材育成や地域資源の活用を推進することとしている。
     本学では、このような様々な活動を通して地域における音楽文化の普及向上に努め、地域社会に貢献するとともに、大学は地域社会とともに歩むことの重要性を常に認識の上、本学の建学の精神を広く学内外に周知している。
    (2)教育方法・内容等の充実
    学園は、教育方法・内容等の改革にも意欲的に取組んでおり、大学においてはこれまでFDによる実技を中心とした改革を実行し、各専攻実技と関連科目を有機的に結びつけ、本学における音楽教育に対する価値観の形成及び多様な学生の目標や目的、期待に少しでも近づくことが出来るようにしたほか、学生の音楽能力向上のためのカリキュラム等の見直しを行ってきた。

Ⅱ.本学園の教育体制

  1. 東邦音楽大学大学院
    東邦音楽大学大学院は、1専攻3コース4領域(ピアノ、声楽、管弦打、作曲)を設け、建学の精神に基づき、音楽芸術に関する知識と技術を授け、文化国家形成のため、有能な演奏家並びに音楽の指導者を養成するという専門教育に基礎を置き、専攻分野における研究能力と高度の専門性を授け、優れた音楽家を社会に送り出すこと、併せてウィーンアカデミーでの高度な技術習得のための研鑽、ウィーンを通した西欧の音楽思想、文学、哲学、歴史的知識を総合的に研究することにより、海外でグローバルに活躍出来る人材を育成することを目的としている。即ち、「広い視野に立ち精深な学識を授け、音楽分野における研究能力または高度の専門性を要する職業等に必要な能力を養い、文化の進展に寄与すること」である。大学院生のこれまでのウィーン研修をみると、積極的な研修姿勢をみせ、特別研究では音楽の表現と様式を知り、その作品の作者と時代の精神、習慣、生活までをも捉え、その上で自分自身の人生との共感部分を音楽によって表現することができたと思われる。
  2. 東邦音楽大学
    東邦音楽大学は、1学部1学科8専攻(Konzertfach(演奏専攻)、ピアノ、声楽、管弦打楽器、音楽創造、音楽療法、教職実践、パフォーマンス総合芸術文化)を設け、学生が目指す将来目標を尊重し、それに沿った実践的な専門教育を行い、演奏家、指導者、音楽制作者及び対人援助者として音楽を通して社会に貢献でき、実践的に幅広く活躍できる人材の育成を教育の目的としている。
    平成29(2017)年度に開設した、Konzertfach(演奏専攻)では、世界で活躍するプロフェッショナルな演奏家を目指すために設置し国際的な間隔を養う年2回のウィーン研修を必修としている。また、本学と東邦ウィーンアカデミー教授陣とのダブルティーチャー制を設け世界進出も視野に入れた演奏家の育成を実践している。
  3. 東邦音楽短期大学
    東邦音楽短期大学は、1学科4専攻(ピアノ、器楽、シンガーソングライター・アーティスト、音楽教養)4コース(ピアノ、ピアノ指導者、管弦打楽器、電子オルガン)を設け、学生が目指す将来目標を尊重し、それに沿った実践的な専門教育を行い、演奏家、指導者及び音楽制作その他音楽を通して社会に貢献出来、実践的に幅広く活躍できる人材の育成を行っている。特に「音楽教養専攻」は、生涯学習社会・高齢化社会に対応し、社会人のニーズに応えて門戸を大きく開放することとし、長期履修制度の積極的な実施や学費の軽減措置など社会人が学びやすい環境整備を図った。
  4. 東邦音楽大学附属東邦中学校・東邦高等学校・東邦第二高等学校
    中学・高校においては、6年というトータルのスパンで技術的・精神的な成長を促す点が特徴である。合唱や合奏の授業では、学年や中高の垣根を越えた合同チームでアンサンブルをつくる機会があり、全体のレベルアップと同時に、先輩・後輩が互いに刺激し合うことで積極的に音楽に取り組む姿勢を磨くことができ、定期演奏会など学園全体のイベントも多く、そこで芽生える生徒同士の絆も本校ならではのものと言える。また、短大生・大学生と一緒に学ぶ機会を設けることで、さらに積極的に音楽に取り組む姿勢を磨くことができることは、中学校から大学大学院までの一貫教育体制を有する本学園の特長の一つでもある。 大学・短期大学の教育改革と併行し、附属校においても、実技科目を2期制にし、大学・短期大学との整合性を持たせているほか、レッスンカルテを導入し、細かな実技指導に心掛けることとしている。 附属中・高等学校は、城之内ミサ特任教授(ユネスコ平和芸術家)による「ユネスコパートナーシップ事業・世界遺産トーチランコンサート」において、附属中・高等学校の生徒で構成する「東邦音楽大学附属中高等学校合唱団」が参加しているほか、令和4年度には日・バーレーン王国外交関係樹立50周年記念での演奏や、さくらトラムクラシックコンサートにおいて好評を得るなど、東邦の知名度を高める一翼を担っている。 附属第二高等学校は、北関東甲信越音楽系高等学校演奏会での交流演奏や、埼玉県民オペラ「秩父晩鐘」に合唱団として出演するなど積極的に音楽活動を行っている。また、国際ソロプチミスト埼玉より地域貢献活動等の功績が認められ、平成24(2012)年5月よりソロプチミスト「Sクラブ」の認証を受けボランティア活動を行っている。 このほか、附属教員及び大学教員の協力・連携の下、附属高校・二高の生徒が東邦音楽大学、東邦音楽短期大学の授業を実際に受ける機会を設けており、「音楽芸術研鑽の一貫教育」という建学の精神を受け継いだ教育が高大接続改革に伴い、大学・短期大学への進学がスムーズになり、教育力の向上が期待される。
  5. 東邦音楽学校及び東邦音楽大学エクステンションセンター等
    東邦音楽学校、東邦音楽大学エクステンションセンター及びミュージックセンターでは、生涯学習の一貫として子供からシニアまで幅広い世代を対象に様々なニーズに対応した幅広い講義・実技等の講座を開催している。そのほか、大学・短期大学の卒業生等を対象とした「東邦音楽大学アドバンスコース及びエクセレントコース」を設置し、より高い音楽力を目指す者への教育を行っている。
  6. Ⅲ.ウィーンを基点とする真の国際的音楽家の育成と世界基準の音楽教育

    1. 教育者を育てることは、今後の日本の音楽文化の将来を決定する重要な要素となるものである。日本の音楽教育にルネッサンスを起こすために必要なことは、音楽を言語としての言葉を超えた「魂の言葉」とすることであり、それには個性に応じた表現の自由がなければならない。そのためには、教員が各時代の表現様式に精通していなければならず、しかも、「何は良く何が悪い」という表現の自由の範囲を明確に知り、「何故そうなのか」と説明出来なければならない。その中で個性に完全な自由を与え、しかも正しい方向に導いていかなければならない。それは教員が学生の真のパートナーとなることで、これを実現するためには膨大な知識と作曲家とその時代の様式、更に歴史や社会状況(例えばウィーン古典派時代の機能和声は社会秩序に由来すること等)も踏まえていなければならない。 また、モーツァルト、ベートーヴェン等当時の音楽家は単に演奏家というより即興演奏等にも長けた総合的な音楽家であったことは教育の帰すべき道を指し示している。音楽家を育成することは様式学から即興演奏の知識に至るまで、全てが以前の様に画一的に教える創造性の無いものであってはならず、一人ひとり表情が違う様に、同じ曲でもその演奏者の人生そのものを映し出す個人的な表現が求められ、それを許し育てることは教員の知識と自信、教育姿勢に委ねられる。 これらの教員の条件を満たすことが出来るために最も必要なことがウィーンアカデミー特別研究で触れる音楽の原点なのである。これによって単に名人的演奏家を作ろうとするこれまでの教育とは違い、教育者が第一に音楽家を育成することを意図し、かつてのモーツァルトやベートーヴェンが単に作曲家であったのではなく、演奏家でも教師でもあった、そういう意味での音楽家を育て上げ、その人々が次の世代を教えることにより日本全体に同一音楽言語で、それが世界の地の人々とも共通な言語として音楽を通じて、私たちを刺激し育み、私たちの可能性を拓くのであり、音楽は人生を賛美し、私たちに生き甲斐を与えてくれる「可能性の芸術(フランスの思想家ポール=ヴァレリー)」である。東邦では、これらのことを踏まえ、世界で通用する音楽家・音楽人の育成を目指し、そのための教育として世界基準の音楽教育を実践することとしている。
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