研修期間2012年11月6日~11月19日
11/6
半日ほどのフライトを終え、現地時間で午後四時頃にウィーン到着。午前中は雨が降っていたそうだが、僕たちが着いた時には、真っ暗な曇り空だった。日本の空と同じはずであるのに、気持ちの高まり故か特別な景色のように感じられた。今日から二週間、ヨーロッパの空気を全身で吸収したい。
11/7
日本との時差に、まだ身体が慣れていないせいか、早朝に目が覚めた。窓を開けてみると肌寒いものの、空気が澄んでおり気持ちが良かった。この日は、現地のガイドさんに案内して頂きながら、バスで市内巡りをした。豪華絢爛な部屋が並ぶシェーンブルン宮殿ではハプスブルク家の圧倒的な力を感じると共に、優美な空間に包まれ、自分は宮殿に仕える使用人なのだ。と、錯覚さえ覚えた。
11/8
午前中は後日観に行く予定のオペラ「椿姫」について予習をしたり、バロック期から古典期にかけての音楽を中心に細かい要素の分析をした。午後からは自由行動が許されていた為、友人とアカデミー近辺の散歩をした。慣れないドイツ語を精一杯駆使し、地下鉄に乗ったり、オペラ「愛の妙薬」を、立ち見で楽しむなどした。
11/9
この日は当番だった為、少し早起きをして、同じグループの友人と朝食作りをした。料理をすることと、音楽をするということの類似は前から感じていた。どちらも丁寧に作り上げる必要があり、どの要素も無駄には出来ず、誰かを幸せな気持ちにすることができる。いつかは一流のシェフのような音楽家になりたい。午後には初めてのレッスンがあった。勉強してきた楽曲に、新たな感じ方や考え方を教わり、曲が変わっていく様子が楽しかった。
11/10
午前中の自由行動では、地下鉄に乗り、シュテファン寺院のある駅で降りた。地上に出てすぐに目の前にそびえ立つ寺院に圧倒され、言葉も出なかった。その美しさは見ているだけで、鳥肌が立つほどであった。午後には全員でオペラ「椿姫」を観た。独特な演出や演技もあり、耳だけではなく、目も心もたくさん使って楽しめた。
11/11
朝早くにアカデミーを出発し、コンツェルトハウスへ。バレンボイムさんとウィーンフィルによるショパンとチャイコフスキーのピアノ協奏曲を聴くためだ。オーケストラの美しい響きとともに、パワフル、それでいて繊細なピアノの音色は、二つのオーケストラが演奏しているようだった。夜にはドミンゴさんも出演する「シモン・ボッカネグラ」を観劇。一日中贅沢な音楽に包まれ、自分はなんて幸せ者なんだろう。
11/12
レッスンをしていただいた。表現を言語化する上での、日本とヨーロッパとの違いを感じられて面白かった。夜にはバレエ「カルミナ・ブラーナ」のチケットを取りに行ったが既に完売。キャンセル待ちの方もたくさん。毎日様々な場所で演奏会が行われているが、それでもチケットが余らないということに、この国の方々にとって、芸術がどれほど身近なものであるかを感じさせられた。
11/13
林先生にガイドしていただきながら、ウィーン市内や美術史博物館などを巡った。歴史的にも大変貴重な名画や、建造物が当たり前のように自分と同じ空間にあるので、ベートーヴェンやルーベンスやラファエロは、「生きていた人間」なんだなあ。と、しみじみ感じられた。歴史とともに生きる街という印象が、より深まった。
11/14
最後のレッスンをして頂き、修了演奏会のゲネプロを行った。音楽の様々な要素と向き合い、丁寧に作り上げていくことの大変さを、改めて感じた。午後には、西欧の最先端の音楽教育についてお話を伺った。対象は幼児や子供の為の教育についてだったが、自分の練習にも取り入れたいものが多々あり、わくわくした。
11/15
一日自由行動をすることが出来たので、午前中はアカデミー周辺を、午後には地下鉄に乗って街中をあるいた。話せる言葉が少しずつ増えていくのが、とても楽しかった。夕方にはミサに参加した。音楽と宗教、宗教と人との根強い関係を大いに感じた。
11/16
あっという間に、修了演奏会当日。アットホームな空気の中コンサートが行われ、友人たちの素晴らしい歌やピアノの演奏に心があたたかくなった。自分の演奏は多々納得行かないところがあったが、課題や方向性が見え、これからの音楽人生が、より楽しいものになる気がした。
11/17
モーツァルトが生まれた地であり、大好きなミュージカル映画「サウンドオブミュージック」の撮影場所でもあるザルツブルクを皆で訪れた。向かうバスは途中、霧に包まれしばらく何も見えなかったが、ある時を境に霧は晴れ、青空の下、広大な自然が目の前に広がった。この中をマリアやトラップ一家の子供達のように、駆け回り、歌を歌ったならば、どれほど気持ち良いだろう。美しいものを自分の中にたくさん取り入れたくて、つい深呼吸をした。
11/18
二週間お世話になったアカデミーの大掃除をした。ここに至るまで本当にあっという間だったが、どの部屋にも思い出を感じた。自然と落ち着くようになった自分の部屋。皆で多くの時間を共にした食堂。学びと喜びに溢れたレッスン室。音楽について、夢や目標について、友と語り合った部屋。感謝と寂しさと、来年ここを訪れる後輩たちのことを考えながら、各部屋を廻った。
11/19
とうとう最終日。全てが名残惜しく、アカデミー内を意味も無く徘徊し、近くのスーパーやチョコレート屋さんへも行った。お迎えのバスに乗り、空港へ。手続きはすぐに済み、気づけば飛行機に乗っていた。「またお邪魔します。」と心の中でお辞儀をし、愛しい地となったウィーンを離れた。心には有意義な滞在で得た決意を、手には重いお土産の数々を持って。