音楽療法:平田紀子先生の教員レポート

平成24年9月17日から2週間、音楽療法専攻のウィーン研修に、引率教員として同行しました。ここでは研修の模様をお伝えします。

9月18日
午前はウィーン・アカデミーの林千尋先生によるオリエンテーションと、オーストリアの歴史と音楽についての講義、午後からはウィーン市内見学。
毎年お世話になる現地ガイドは、流暢な日本語の親日家、クラウスさん。ユーモアあふれる解りやすい案内で、シェーンブルン宮殿内部、バスからの市内観光、そしてベートーヴェンら著名な作曲家たちが眠る中央墓地へ。

9月19日
今日からウィーン国立音大の音楽療法教授・アンゲリカ・タイヒマン先生による「グループによる音楽療法」。ワークショップ(体験授業)の3日間だ。
初日はボディーパーカッションによる即興演習。まず身体の様々な部位を使って響きの違いを感じ、次にグループに分かれて即興アンサンブルを披露。発表後、自分たちの感情の動きを言葉で表す。
状況説明ではなく、各場面で自分がどんな気持ちを抱いたかを伝え、分かち合うことが、音楽療法で他者を受容するプロセスに役立つことを学ぶ。

9月20日
タイヒマン先生の講座2日目。
アカデミーには音楽療法に用いられる様々な打楽器や古楽器が備えられ、ワークショップではそれらを活用する。
二人組になり、片方が任意の楽器で今の身体の状態を表現。相手が解釈して言葉で表し、全員でシェアリング(分かち合い)する。
また、足踏みによる即興は、自分の気持ちを表す様々なテンポやリズムに周りが楽器で合わせていく。これらは音楽療法の対象者の、感覚や感情を読み取り理解する訓練につながる。
午後はカンティラという北欧の竪琴状の古楽器を数人が奏で、響きを渡し合い、聴き手がどんな感覚やイメージを持ったかを発言する体験。
しめくくりはグループに分かれ、好きな楽器を使って即興で「踊りのための音楽」を演奏した。
夜は林先生の案内で国立オペラ座へ。シュトラウスの歌劇「エレクトラ」の迫力に圧倒される。

9月21日
タイヒマン先生の講座3日目。
踊りの音楽の即興ワーク。全員が好きな楽器を選んで円形になり、一人が中心に入って歩くリズムやテンポをリードし、役割を渡していく。
また、先生がご自身の音楽療法でよく用いるモノコードという弦楽器を自ら奏で、全員でリラクゼーションの体験をする。
これらのワークショップではすべて、音楽の体験による自分の感情の動きを言葉で説明することが求められ、それは音楽療法士の成長に大きな意味を持つことだとタイヒマン先生から学ぶ。
夜は国立オペラ座にてプロコフィエフのバレエ「ロミオとジュリエット」観劇。

9月22日
今日は、リタ・クラーヴィンクラー先生によるワークショップ「楽器(道具)としての身体」。
自分の身体や声、呼吸の状態や感覚を認識するエクササイズで、音楽療法だけでなく、自己の心身のセルフケアに役立てるという内容だ。
まず声を出しながらの脱力やストレッチ、またマットを使い寝起きする姿勢で呼吸を意識する方法、身体の各部位が心地良くなるためのエクササイズを学ぶ。また感情の動きに伴って、歩き方や立ち方がどのように変化するかを体験。
次に「信頼関係」のワーク。まず二人組で、肩、首、手足などマッサージを施す方法を教わり、安心して人に身をゆだねられるのはどういう感覚か話し合う。
そして人と接する際に自分の内面の状態がどう反映されるかについてロールプレイ(疑似体験)し、それについて討議をする。
音楽療法において対象者の身体や心の様子を配慮するのは勿論だが、療法士自身が自分自身の状態について知ることも、また重要であると学んだ一日だった。

9月24日
前日ウィーン郊外の音楽史跡散策と、美術史美術館見学でリフレッシュした後の研修後半戦。
今日はトゥセック先生の講義で「音楽療法における人類学」。先生はウィーン交通事故病院音楽療法所長で、神学と心理学のご専門でもある。
まず音楽療法の効果はどのような要素によって成り立つかを人類学的、文化の違い、個人的背景などの視点から解説。またオーストリアの音楽療法事情や、記録と評価、分析の仕方について、最前線の資料を元に紹介された。
映画や音楽ビデオクリップを例にとった、様々な環境や物語における音楽療法的な人同士の関わりは、わかりやすく身近に感じられるものだった。
圧巻は先生の勤務する病院での集中治療室や、身体に麻痺の後遺症が残る患者さんへの音楽療法セッションの映像である。
実習中の学生さんは勿論、音楽療法士の仕事をする私自身にとっても大きな刺激と学びになった。内容の濃い充実した一日だった。

9月25日
精神と身体に携わる医師で、オーストリア医師会の教育療法士でもあるバルトル先生による「心理学入門」の講義。83歳になる先生は、エネルギッシュでユーモラス、温かく深みのあるお話を聞くことができた。
まず当初外科医だった先生が、なぜ音楽療法に着目し携わるようになったかが明快に語られる。
次に音楽療法の要素として、リズム・トーン・温かさの視点から解説。心身症を例に取り、要因や音楽療法の役割、母子関係や生育論について具体的にわかりやすく学べた。
後半は、実際に描かれた患者さんの絵を元に心理状態を解析され、興味深いものであった。
締めくくりは哲学的な内容で、人間にとっての「解決」をテーマに、先生が大戦の前線で経験したエピソードを交えながらのお話。簡潔ながら大変心打たれるものだった。

この他にザルツブルグの一日研修など、充実した二週間でした。一同貴重な経験となり、今後の学びに大いに活かせるものになると確信しました。

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