音楽療法:木下容子先生の教員レポート

2019年9月4日(水)から9月18日(水)までの15日間、音楽療法専攻15名のウィーン研修に引率教員として同行しました。音楽療法研修の内容を中心にご紹介します。

9月5日(木)


午前は、林千尋先生によるオリエンテーションとオーストリア事情についての講義。
午後は、ウィーン市内の見学へ。ガイドはとても流暢な日本語のクラウスさん。日本人顔負けのユーモラスな日本語案内でシェーンブルン宮殿内部の見学をする。そしてバスでベートーヴェンらが眠る中央墓地へ。学生たちは、自分の好きな作曲家の墓地を見つけると、それぞれ墓前で想いを馳せていたようであった。
そして、夜はVolksoperで「ピーターパン」を観劇する。

9月7日(土)

神学と心理学がご専門のトゥセック先生による「音楽療法における人類学」の講義。ウィーン交通事故病院音楽療法所の責任者である先生から、交通事故に遭った人を医学的・生物学的にだけ観察するのではなく、心理学的に理解することの大切さを学んだ。そして、人間とは「常に外界とコミュニケーションしたい生き物」であること、そして「誰か共鳴したい生き物」であることを教わった。音楽は他者と“共鳴”できるツールであることから、音楽療法の可能性を改めて実感することができた。
また、実際に交通事故に遭った人の音楽療法セッションのビデオを拝見させて頂いた。上肢のわずかな動きで音が出せる機械を用いて、ピアノとの即興演奏をしている患者さんの様子をみると、一同胸が熱くなった。人間は誰でも“美”を求める生き物だということを、深く教えて頂いた講義であった。

9月8日(日)

リタ・クラ―ヴィンクラー先生による「楽器としての身体」のワークショップ(体験しながらの講義)を受けた。
まずは、声を出しながら床にひいたマットに脱力して寝転がる動きをくり返す。リタ先生のご指摘で、脱力しているつもりでも出来ていない自分たちの身体の状態に気づくことから始まった。また、ストレッチするにはまずはリラックスすることが大事で、普段いかに真からリラックスすることをしていない(出来ていない)かにも気づかされた。
その後、二人一組になって呼吸を意識しながらストレッチをする。呼吸を止めてのストレッチとスムーズに呼吸をしながらのストレッチの違いを体験する。他者の身体を通して自分の身体に気づく、という貴重な体験だったように感じた。
また、講義の序盤と終盤に、それぞれの身体のイメージを絵で表した。2枚の絵で身体イメージが皆変わっていること、絵は自分の内面を言葉よりも正直に表していることに一同驚いた。そして、他者の絵についてコメントを自由に出す学生たちを見て、身体がほぐれたことによって心も十分にほぐされたように感じた。

9月10日(火)

 
午前は、音楽史跡研究、そして午後は文化史体験ということで美術史美術館を見学した。美術館自体の芸術性の高さに、一同圧倒される。そして貴重な絵画にため息を漏らしつつ、林先生の解説に熱心に聴き入る。夜は国立オペラ座へ。オペラ座自体の美しさに惚れ惚れしながら「椿姫」を観劇。ウィーンの夜の肌寒さを吹き飛ばす熱気であった。

9月11日(水)

バルトル先生による「心理学入門」の講義。バルトル先生は医師であり、オーストリア医師会の教育療法士でもある。
音楽療法の3つのセオリーとして、①人間としてのあたたかみ ②リズム ③恒常性(くり返し) これらが根底にあると説かれた。そして、幼少期の“あたたかみ“の欠損に対する音楽療法の有効性を述べられた。学生は、これまでの心理学の基礎知識を総動員して先生のお話の理解に努めていた。
バルトル先生が関わった患者さんたちの実際の絵画を観せて頂いたが、それを観ながら“あたたかみの欠損”など人間の内面への洞察をおこなった。絵画を通してのバルトル先生の解説は秀逸であり、学生たちは聴き入っていた。そして、患者さんの絵画を基に、学生それぞれが自己洞察を深めているのが表情から伝わってきた。

9月12日(木)


タイヒマン先生による「グループによる音楽療法」というワークショップを受けた。タイヒマン先生は、熟練した心理療法家・音楽療法士である。学生たち一人一人としっかり視線を交わされ、言葉ではなく学生の表情や身体の動きからその学生の本質を見抜いていらっしゃるように窺えた。
まずは場面内を、声を出しながら自由に歩く。自分の声を通して身体の状態に気づく体験をする。その後は、マットに横たわりながらタイヒマン先生が演奏するモノコードという楽器を聴く。感覚が研ぎ澄まされる者、眠りへと誘われる者、体感温度が変化していく者など、その反応はまさに多様であった。同じ音を受け取っても反応は人それぞれで、学生たちの積極的な発言によって他者の感じ方を知ることが出来ていた。

9月13日(金)

タイヒマン先生によるワークショップの2日目。
まずはウォーミングアップで、タイヒマン先生のドラの音に合わせて歩行し、好きな音の高さでハミングする。また、ハミングしながら①手にした布を動かしながら、近くの他者と動きを通してコミュニケーションする ②何も持たずに近くの他者と動きを通してコミュニケーションする ③再び布を持って、近くの他者と動きを通してコミュニケーションする 以上の3通りを実践した。それぞれ自分がどう感じたかを言葉で表していくのだが、その時に大切なのは「自分が快か、不快か」という軸であることを教わった。音楽療法では対象者の方の反応を見極めるのが大切だが、まずは音楽療法士自体が、「自分がどう感じるか」をしっかり感じ取り、気づき、そして言葉にする作業が必須であることを学んだ。
その後、2人組やグループごとに大小さまざまな打楽器や古楽器を手にして即興演奏を行った。全体の中で自分がどう表現するか、指揮する学生のダイナミクスにどう応じるか、その場で真剣に取り組んでいる学生たちの様子が印象的であった。

全体を通して

今回の研修で4人の素晴らしい先生方からご講義やワークショップを受けたが、共通していることが2点感じられた。
まず1つめは、“自分の気持ちに気づく重要性”である。音楽療法セッションにおいて、他者理解を高めることは必須であるが、その前にまずは音楽療法士としての“自分自身”に深く焦点を当てること。そして自分の本能的な気持ちに気づき、自分で認めてあげることが何よりも音楽療法士としての成長に繋がるものと確信した。
2つめは、自分の気持ちに気づいたら、それを“的確に言語化し、他者に伝える力を育む重要性”である。自分の気持ちを相手に伝えるためには、適した言葉を探し当て、熱意をもって相手に伝えることが大切であることを学んだ。これは音楽療法士としてもだが、学生が今後グローバルな社会で活躍するために大いに役立つものであると感じた。

ウィーンの豊かな文化に触れ、魅力的な講義を体験し、寝食を共にした仲間との触れ合いを通して、本当にいろいろなことを吸収した15日間でした。この体験は、学生の更なる成長へと繋がるものと思いました。

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