夏の日と、バッハのフーガ

長い梅雨が明けると一転して猛暑となりました。
新型コロナウイルス感染拡大への懸念から、自由に旅行や外出を楽しむこともままならない中、改めて音楽に親しむことのできる日常というものの貴重さに思いを寄せる今日このごろです。

そんな中、学生たちは前期実技試験に向けて練習にますます熱が入っています。

本学では様々な角度から、ピアノにおける「時代様式に基づく演奏」への追求を行っています。
ピアノ実技試験では、大学1、2年と短期大学1年において演奏する時代様式を指定し、それぞれの時代の音楽の特徴やその背景について理解を深めることとしています。

例えば大学2年前期の課題は「バロック期」です。
バロック期はヨーロッパにおいて鍵盤音楽の花が大きく開いた時代。同じ1685年生まれの大バッハ、ヘンデル、スカルラッティら、多くの大作曲家たちが活躍しました。

バロック期を代表する「音楽の父」J.S.バッハ。その偉大さは誰しもが知るところですが、これを試験で演奏するとなると気が進まないと感じる人も多いのではないでしょうか。特に、多声部音楽の象徴ともいえる「フーガ」は非常に譜読みや暗譜が難しいものです。
この暑い夏の日々、じっくりと時間をかけてバッハのフーガに取り組んでいる学生たちも多いです。

フーガに取り組むことは、音楽家としての能力と教養を高めることにつながります。
「和声法」と並んで西洋音楽の重要な技法のひとつである「対位法」は、それぞれの旋律の独立性を生かしながらそれらを重ね合わせ、調和させるというもので、フーガにおいてはこれが精密な時計のように進行していきます。

譜読みを始めたころは捉えどころがないように思えた音が、曲を分析、理解し、イメージを作り上げていくことによって、徐々に各声部それぞれの魅力が浮かび上がり、調和していきます。それは何か地球の自然界の調和のようでもあり、宇宙の天体が醸し出すハーモニーにも似ています。

当時の社会、文化や、親しまれていた楽器について研究してみることも、演奏表現に役立つだけでなく、そのこと自体がとても興味深いものです。本学には、当時幅広く親しまれていた楽器である「クラヴィコード」が2台あります。普段ピアノで練習している曲をクラヴィコードで弾いてみると、モーターもエンジンもなかった時代、人々が聴いていた音の世界がどのようなものであったかを思い浮かべることができます。