2020年をふりかえって

今年は季節を味わう心の余裕もなく師走を迎えました。ふと見廻せば樹々は装いを替え、山茶花が冬の到来を告げています。丁度一年前に始まった新型コロナウイルス感染症、誰がこんなに振り回されると思ったでしょうか。立ち向かうことも出来ず、私達は感染防止に努めるしかありませんでした。

本学では「マスク着用」「手指の消毒」「毎日の検温」「部屋の換気」「距離をとる」など、万全の態勢で対策をしています。そのような中でも学生達が落ち着いて勉学に励めているのは、「ピアノ」というしっかりした柱を持っていること、そして教職員による大きなサポートがあるからに他なりません。

このような状況の中で、新たな発見がありました。私はここ数年、大学2年生のピアノ専攻の学生を対象にした「初見視奏」の授業を担当しています。これは、学生達に1ページほどの楽譜を配布し1~2分予見をした後、指名された学生が出来るだけ正確に、そしてその曲らしく弾くということを目指す授業です。1回の授業(45分)のうちに、6~8曲の楽譜を見ますから、年間170~180曲の新しい楽譜を見ることになります。昨年までは演奏する学生の傍に立って指導していたのですが、今年は近づくことができません。仕方なくピアノの後方、つまり演奏している学生の顔が真正面に見える位置に立つことになりました。そこで気づいたのが、初見の得意な学生と不得手な学生の眼の動きの違いです。得意な学生は楽譜からほとんど目を離さずに弾いています。ところが不得手な学生は楽譜を見たり鍵盤を見たり、始終目が動いているのです。そこで鍵盤を見ずに弾くことを心掛けるようアドバイスすると共に、さらに力をつけるために広い音域を鍵盤を見ずに弾くエクササイズを取り入れることにました。これは右手だけ、左手だけ、そして両手で跳躍した音を弾くのですが、とても難しく体が硬くなってしまうと大きく腕が動きません。普段とは逆に、間違うことを恐れず思い切って遊ぶ感覚で行うことにしました。回を重ねるうちに、少しずつ効果が出てきていることを実感しています。

誰しも子供の頃は鍵盤で遊んだ経験があると思いますが、成長してからはその感覚を忘れていないでしょうか? 見方を変え、それを思い出させてくれたのが新型コロナウイルスでした。
感染の拡大が毎日報じられ、Go to キャンペーンも停止になりました。
皆さま、健康にご留意の上、新しい年をお迎えください。

大場 文惠

文京キャンパス入口ホワイエのクリスマスツリー