東邦ピアノセミナー分科会~その3


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3つめの分科会は体験参加型の講座です。今年は「身体とピアノ演奏~自分の音楽を表現するために~」と題して、春日洋子ピアノ主任教授によるレクチャーが行われました。

ピアノを演奏する際には、心技体の調和が大切です。どんなに素晴らしいイメージを持っていても、身体が自由になっていなければ聴き手に音楽を伝えることはできません。
ピアノを弾くにあたって身体の各部位がどのような働きをするかを知ることは、練習内容や演奏表現を充実させることに大いに役立つことでしょう。

今回の講座では、まずピアノで音を出す際に直接関係のある「うで」を中心に、その機能と扱い方、脱力等について考察。自然なエネルギーをどうすれば楽器に伝えることができるか、普段わたしたちがあまり意識していないような点も含めて、さまざまな視点が紹介されました。

次に、いよいよ受講生が実際に身体を動かすコーナーです。ゲストの安達悦子先生(本学大学院講師、東京シティバレエ芸術監督)がナビゲーターとなり、「支え」を意識しながら身体を自由にコントロールする実践を行いました。
さまざまな拍子の曲に合わせて身体を動かす場面では、春日先生自らピアノを演奏。例えば2拍子ではグリーグの組曲ホルベアの時代より「リゴードン」、3拍子ではラヴェルのクープランの墓より「メヌエット」といった名曲に合わせて身体を動かします。
最初は戸惑いを見せていた方が多かったですが、徐々に拍子にフィットしてきました。拍を「先に」感じるということが掴めてきたようです。

最後に、ピアノを演奏する際のさまざまな身体運動について、ショパンのエチュードを例に春日先生が解説。「反進行」「回転」「跳躍」など非常に多岐にわたる
ピアノの奏法を、解説を交えて実際の演奏で確かめることができ、身体とピアノ演奏についての理解がいっそう深まりました。

いずれも普段なかなか体験することの出来ない内容ばかり。受講した方々からは「脱力の大切さをあらためて実感することができました」「実際に身体を動かしてみて、身体への意識がいっそう高まりました」といった声が多数寄せられ、新鮮な発見に満ちた時間となりました。

今回で東邦ピアノセミナーについてのレポートを終わります。
受講された皆様から、直接あるいはアンケートを通じてたくさんのご感想、ご意見をお寄せいただきました。私たちはすでに次の機会に向けての検討に入っており、皆様からいただいたご意見は本当に貴重な財産です。この場を借りて深く御礼申し上げます。

東邦ピアノセミナー分科会その2


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東邦ピアノセミナーの分科会には、作曲家研究を題材としたものも用意されています。
今年は「シューマンからのメッセージ~楽譜から見えてくるもの」と題して、大場文惠准教授によるレクチャーが行われました。

シューマンは1810年生まれ。来年生誕200年をむかえるドイツの大作曲家ですが、彼は楽譜のみならず多くの著作を残していることでも知られています。
今回の分科会では、彼が自ら執筆、編集していた音楽雑誌「新音楽時報」をひも解きながら、シューマンの音楽観を探りました。
ちなみにこの「新音楽時報」は、なんと今でも刊行され続けているのだそうです。ヨーロッパ音楽文化の息の長さを感じさせますね。その中には東邦の図書館に収蔵されているものもあり、実際に私たちが読むこともできるのです!

大場先生のお話は、その内容に踏み込んで行きます。
例えばシューマンが記した「演奏の心得」の中には、子どもたちに対して「和声」や「和声感」を伝えることが大切である、という記述があるそうです。200年近い年月を越えて、今でも新鮮さを失わない彼の言葉が数多く紹介されました。

また、シューマンの楽譜の中には様々な記号が書かれていますが、これらを深く「読む」にはどうしたらよいのでしょうか?
例えば、「その音を特に強く奏する」という意味の記号だけをみても、横向きのアクセント、縦向きのアクセント、スフォルツァンド、フォルテピアノなど、様々な記号をシューマンは使い分けているようです。
大場先生は、これらの記号についての考えをお話ししながらシューマン作品を実際に演奏されました。

シューマンからのメッセージは、著作や楽譜のなかに数多く残されていて、今でも私たちに向かって語りかけているのですね。
楽譜をただ漫然とながめるだけでは得られない豊かな世界が広がり、受講生の方々からは「本当に楽譜をよく読むことの重要性を知りました」という感想が多く寄せられました。

東邦ピアノセミナー分科会その1


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東邦ピアノセミナーでは、午前中の全体会に引き続き、午後はテーマ別に3つの分科会が開催されました。

分科会のひとつは、ピアノ指導に携わっている方々にとっては特に関心の深い、ピアノ指導法や教材に関するセミナーです。
今年は「児童期におけるピアノ指導教材の研究~音楽性と表現技術を育てるレパートリー」と題して、國谷尊之専任講師が担当しました。

この分科会は、多くの資料を参照しながら進められていくため、机のある講義室が会場となりました。受講者には様々なピアノ指導教材に関する資料が配布され、レクチャーを聞きながら熱心にメモを書き込んでいる方が大勢いらっしゃいました。

日本の旧来のピアノ指導教材は古典期の曲(たとえば「ソナチネ・アルバム」等)が支配的です。

かし今では、古典期のみならず、ポリフォニーに特徴のあるバロック期の曲や、ピアノの機能が飛躍的に発達したロマン期の曲、良質な教育的作品が多数書かれ
た近現代期の曲を有機的に組み合わせて行く「四期別指導」が世界の主流となっており、日本でも近年その良さが広く認められるようになってきました。

また、古典期の作品を集めた「ソナチネ・アルバム」も、長らく使われてきた版は古典期のスタイルに全く合わないスラーや強弱記号などが多数書き加えられているのに対し、最近は古典期のスタイルそのものの魅力を伝えてくれる良い版が容易に手に入るようになってきました。
今回はこの2種類の版の指示に従ってクレメンティのソナチネが比較・演奏されましたが、受講生の中からはそのあまりのキャラクターの違いに驚きの声が上がっていました。

昨年の「導入期指導教材の研究」に引き続き、大勢の受講生の皆様にお越しいただき深く感謝申し上げます。
次回も分科会のレポートを続けます。

東邦ピアノセミナー全体会


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去る7月26日(日)に行われた第3回東邦音楽大学・東邦ピアノセミナー。今回は、午前中に行われた全体会のレポートです。

今年の全体会は、上田京専任講師による「時代様式に基づくピアノ演奏とは~作曲者が調性に託した想いとその時代背景」と題し、楽曲の調性やさまざまな音律について興味深い話が展開しました。

会場にはごらんのように2台のピアノが置かれていました。2台のピアノをどんなことに使うのかと思いましたが、実はこの2台は異なる方法によって調律されたものだったのです!

1台は、現代において一般的な「12平均律」によって調律されたもの。そしてもう1台は、バッハの時代に行われていた古典調律のひとつ「ヴェルクマイスターの調律法」によって調律されたもの。
上田先生の実演で、さまざまな調の楽曲が古典調律によって演奏されました。まさに調が変わるたびに、異なる性格の響きが生まれます。
会場を見わたすと、なるほどという表情で頷きながら聴いていらっしゃる受講生が大勢いらっしゃいました。

他にも、ルネサンス期の調律法「ミーントーン」で演奏されたショパンの曲の音源などが紹介され、聴きなれない歪んだ響きに会場がどよめく場面もありました。

J.マッテゾン、C.F.D.シューバルト(シューベルト、ではありません。)、E.T.A.ホフマンらの調性格についての研究も、とても面白いですね。例えばシューバルトによれば、変ロ長調は「陽気な愛、善良な道徳意識、希望、よりより世界への憧憬。」ト短調は「不機嫌、不愉快、失敗しそうな計画の強行、不満げな歯軋り、憤りと億劫な気持ち。」など、ずいぶん印象的な言葉が並んでいます。

最後は、上田先生の実演でJ.S.バッハ作曲「平均律クラヴィーア曲集」のさまざまな作品が、調性格に言及しながら演奏されました。また、実はこの曲集は12平均律を想定した楽曲ではなく、日本で「平均律」と翻訳したのは誤訳であるということも紹介され、まさに情報満載、とても濃厚な1時間半でした。

次回は午後の分科会についてレポートします!