第15回東邦ピアノセミナーを開催しました。

2022年7月31日、文京キャンパスにて「第15回 東邦音楽大学 東邦ピアノセミナー」を開催しました。
昨年度に引き続き、感染症対策として受講人数を制限した上での実施となりましたが、今回もほぼ定員に近い方々にご参加いただくことができました。
会場の50周年記念館ホールは、ソーシャルディスタンスを保ちながらも、ピアノ音楽への興味と愛情にあふれた素晴らしい雰囲気となりました。

オープニングでは、学長、ピアノ主任教授のご挨拶に続き、東邦音楽大学Konzertfach(演奏専攻)4年生の宮本有紗さんが、M.ラヴェル作曲《クープランの墓》より、「メヌエット」と「トッカータ」を演奏しました。

演奏後は大場ピアノ主任教授のインタヴューがあり、宮本さんからは本学演奏専攻での学び、今後の研究・音楽活動への抱負などについて語っていただきました。

浦川玲子専任講師による講座1『ピアノのための練習曲の発展をたどる~バッハの教育的作品からショパンのエチュードまで~』は、ピアノの世界では身近と言える「練習曲」について改めて深く考える機会となりました。

講座タイトルに示されたように、鍵盤楽器のための練習曲という分野は、J.S.バッハからショパン、そしてその後現代に至るまで、名だたる大作曲家たちが様々な視点から追及しています。講座の初めには、まず「練習曲」について「演奏技術の習得を目的として書かれた器楽曲」「1曲につき一つのテクニックの習得が意図され、音楽的な面白みも併せ持つ」との定義が確認され、各国語による「練習曲」の語源についても考察されました。これを今回の講座の「縦軸」としながら、時代の流れに沿って様々な作曲家による教育的作品とその内容について、豊富な資料、映像、音源を交えて明快に解説されました。
講座の中で取り上げられた音楽家は、主な人物だけでもJ.S.バッハ、その妻アンナ・マグダレーナ・バッハ、大バッハの次男C.P.E.バッハ、W.A.モーツァルトの父であるレオポルド・モーツァルト、M.クレメンティ、L.v.ベートーヴェン、C.チェルニー、F.リスト、F.ショパンという幅広さで、さらにその練習曲のみならず、時代背景、当時の楽器の特徴、影響を受けた音楽家たちについてのエピソード等、90分の講座とは思えない豊富な情報量でした。この講座により、今後ピアノのための練習曲とその意義について、より深く考えて行く契機を得ることができました。

中島剛専任講師による講座2『F.リストのピアニズムと作品の魅力を探る~F.リストの超絶技巧とされる卓越した演奏技術と多彩な表現の秘密~』は、リスト作品の特徴と魅力を再確認するとともに、講座1に引き続き、ピアノという楽器の持つ大きな可能性と表現技術について深く考え、そして感じる機会となりました。

リストのピアニズムは華麗なる超絶技巧というイメージが大きい一方、その作品は美しいハーモニーと詩的なインスピレーションに満ちています。折しもセバスチャン・エラール(仏・1752-1831)によって開発された「ダブル・エスケープメント機構」によりピアノの可能性が広がったことも、彼の演奏に大きな影響を与えました。
この講座では、東邦ピアノセミナーでは初登場となる中島剛先生により、エラールが稀代のピアノ製作者となった生涯と、その発明であるダブル・エスケープメント機構をはじめとする楽器の特徴について解説された後、実際の演奏を交えながら、リストの作品を演奏する際の体の使い方、表現のために重要な和声、幅広いデュナーミクとアゴーギクなど多角的に考察されました。《ラ・カンパネラ》《愛の夢 第3番》等の有名曲の分析、解釈、演奏法に続き、晩年の《暗い雲》《夜想曲「夢の中に」》等、無調へのアプローチや精神性の追求、中島剛先生のハンガリー留学時の母校である、リストがその設立に尽力し初代総長となった「リスト音楽芸術大学」(いわゆる「リスト音楽院」)についても語られました。
そして講座の最後には、質疑応答コーナーに続き中島剛先生による《愛の夢 第3番》の演奏が披露され、充実した真夏の一日が締めくくられました。

今年も多くの皆様とともに無事に東邦ピアノセミナーを終了することができました。このセミナーへの応援や期待のメッセージもたくさんいただいております。この場を借りまして深く感謝申し上げます。
今後もピアノ音楽に関する様々なテーマを掘り下げていく予定です。また皆様と会場でお会いする日を楽しみにしております。

夏の2つのイベント

夏らしい気候になってまいりました。大学では「前期まとめ」の時期となり、学生たちは試験に向けて日々の練習に励んでいます。目標に向けて取り組む姿は、夏の日差しのようにまぶしく、そして頼もしく見えます。

 さて、4月に出演者選考オーディションが行われた「トライアルコンサート2022 ~オーケストラとの共演」が、来たる7月24日(日)14:00より本学川越キャンパス・グランツザールにて開催されます。
曲目は、W.A.モーツァルト作曲《2台のピアノのためのコンチェルト 変ホ長調 KV365》です。ソリストの亀岡沙有さん(大学3年)と田所理央さん(短期大学2年)の2人はこれまで、指揮者の梅田俊明先生のもと、練習を重ねてきました。本学初の2台ピアノによるコンチェルトです。豪華な舞台が期待されます。どうぞお運びください。
詳しくはこちらをご覧ください。

 また、7月31日(日)には文京キャンパスにて、前回のピアノダイアリーで告知いたしました「第15回東邦ピアノセミナー」も開催されます。7月はイベント続きの賑やかな月です。

暑い日が続いておりますが、音楽とともに快適な夏をお過ごしください。

7月の演奏会、セミナーに向けて

全国的に梅雨に入り、屋内で過ごすことが多い季節となりました。人の身体と似て、楽器も気候に影響を受けます。ピアノは5000以上の精密部品の組み合わせで出来ており、急激な温度・湿度の変化にさらされると状態が様々に変化し、弾き手のイメージに敏感に応えられなくなる場合もあります。そのため、この時期は楽器のメンテナンスに気を配ることがとても大切です。
一方で、晴耕雨読の言葉のごとく、雨続きの日々に落ち着いた気持ちで練習に取り組み、関連する書籍や資料にじっくり目を通すのも楽しいことです。時にはピアノの上蓋を開けて、普段あまり目に触れないところの埃を払って綺麗にするのも良いでしょう。楽器を大切にすることは、音楽を大切にする気持ちにもつながると思います。

長引くコロナ禍によって芸術文化活動は大きく制約を受けてきましたが、様々な感染症予防対策を講じながら徐々に活気を取り戻しつつあります。本学においても、夏に向けて多くの演奏会、セミナー等の準備を進めています。

2022年7月17日(日)川越キャンパスグランツザールにて、『第221回 定期研究発表演奏会【ソロの部】』が開催されます。

本学附属中学校、高等学校、第二高等学校、大学、短期大学の各最上級学年の学生・生徒より選抜された出演者が、ソロ演奏および作品発表を行う晴れの舞台です。
大学からは4年次生の小川雄大さん、関根彩花さん、短期大学から2年次生の中平なつこさんがピアノソロ演奏を披露します。

詳しくはこちらのページをご覧ください。

2022年7月31日(日)文京キャンパスにて『第15回 東邦音楽大学 東邦ピアノセミナー』を開催予定です。
本学教員が講師をつとめ、ピアノに関わる様々なテーマを掘り下げてまいりました。おかげさまで毎年多くの方々にご参加いただき、今回15回目を迎えることとなりました。

講座1「ピアノのための練習曲の発展をたどる ~バッハの教育的作品からショパンのエチュードまで~」を担当する浦川玲子専任講師は、ウィーン国立音楽大学を首席で卒業、ピアノ演奏のみならずピアノ教育法についても深く研究し、オーストリア国家ピアノ教授資格を取得されています。
今回の講座では、J.S.バッハの《インヴェンションとシンフォニア》からショパンのエチュードに至るまで、ピアノ演奏の洗練と上達を目指した作曲家たちの創意工夫をたどります。ピアノ音楽の歴史を彩る大作曲家たちが、その教育法や練習曲についてどのような足跡を残したかを網羅的に知ることのできる貴重な機会となるでしょう。

講座2「F.リストのピアニズムと作品の魅力を探る ~ピアノの可能性を追求した卓越した演奏技術と多彩な表現の秘密~」を担当する中島剛専任講師は、東邦音楽大学を首席で卒業後、ハンガリー国立リスト音楽院で学び、国内外で活発に演奏活動を続けています。
今回の講座は、中島剛先生が中心的なレパートリーとしているF.リストの作品がテーマです。実際の演奏を交えながら、リストの作品を演奏する際の身体の使い方、和声、デュナーミク、アゴーギクなど多角的な視点から解説していきます。東邦ピアノセミナーでは初登場となる中島剛先生のレクチャーと演奏、どうぞご期待ください。

同日、オプションで本学ピアノ指導教員による個人レッスンも行います。(希望者のみ:1人45分)
講座・レッスンとも現在お申込みを受付中です。

詳しくはこちらのページをご覧ください。

ぜひこの夏も、東邦の各キャンパスにてピアノ音楽を味わい、知識を深める一日をお過ごしください。多くの皆様のご来場、ご参加をお待ち申し上げております。

Im wunderschönen Monat Mai~素晴らしく美しい5月に

タイトルは、シューマンの歌曲《詩人の恋》第1曲冒頭の歌詞です。
この詩のように新緑が眩しい季節となりました。緊張気味だった新入生も今ではすっかり学生生活を楽しみ、新しい課題に取り組みながらしっかり学んでいる姿は大変頼もしい限りです。

さて、本学の取り組みの一つとして、オーディションで選ばれた学生がオーケストラと共演する「トライアルコンサート」が毎年開催されています。そのオーディションが4月末に行われました。
本年度の課題曲はW.A.モーツァルト作曲《2台ピアノのための協奏曲 変ホ長調 K.365(316a)》です。ピアノの学生は7組がオーディションに参加しました。
トライアルコンサートでは初となる2台のピアノの協奏曲ということで、この日のために準備を重ねた学生たちは緊張した面持ちで演奏に挑みました。

2台ピアノの演奏はとても難しい点があります。ピアノ同士が離れているため、相手とのアンサンブルや音楽に合わせた呼吸法がとても大切になります。
遠くから聞こえてくるピアノの音に、ぴたりと音を合わせて共同作業で音を作り上げていくのは大変なことですが、どのペアも懸命に取り組んできた成果を発揮すべく熱演する姿を見せてくれました。教員にとっても、学生たちの確かな成長を感じることができる大変嬉しい機会となりました。

オーディションから選ばれたペアは更に研鑚を重ね、憧れのオーケストラとの共演に向けて更に技術、表現力、音楽性を高め、モーツァルトの2台ピアノの世界を表現していくことを期待しています。
惜しくも選ばれなかった学生たちも、この曲に取り組んだ時間は今後の演奏に活かされるに違いありません。
トライアルコンサート開催の日程が決定しましたら、学園HPにてご案内を致します。どうぞ皆様、楽しみにお待ちいただければと思います。

2022年度前期授業・レッスンが始まりました。

今年の4月初旬は冷え込む日が多く、暖かな日差しが待ち遠しく感じられることもありましたが、そのぶん川越キャンパスの桜は長く咲き入学式を待ってくれているかのようでした。

新入学生を迎え、2022年度の授業・レッスンが本格的にスタートしています。
学生たちの活気があふれるキャンパスの光景を目にすることは、教職員にとって大きな喜びです。

新年度オリエンテーション期間には、学生たちが順調に学びをスタートし、それぞれの目標に向かうことができるよう、様々なガイダンス授業が行われました。
ピアノ専攻のオリエンテーションでは、大学のピアノ専攻、演奏専攻(ピアノ)、教職実践専攻(ピアノ)、短期大学器楽専攻ピアノコース、同ピアノ指導者コース全学年の学生が、川越キャンパス・スタジオBに一堂に会しました。

大学では4年間、短大では2年間の学生生活について、毎週のレッスンへの取組み、実技試験、各種演奏会、図書館の活用法、ステージマナー、さらに深く学ぶための大学院での研究について等、幅広い内容について講話がありました。
また、確実に単位を修得し学びを積み上げていくための履修心得や、安全に学生生活を送るための注意点などについても学びました。

オリエンテーションの最後には、演奏専攻4年次生の2人が2台ピアノによる演奏を披露しました。華やかな雰囲気の中で今年度をスタートすることができ本当に嬉しく思います。
学生時代に経験したことは、卒業後の人生の中で様々な形で役立つに違いありません。学生ひとりひとりの人生がより充実したものになることを願い、今年度も授業・レッスンを進めてまいります。

今年度を振り返って&卒業代表演奏会

いよいよ春本番の陽気になってきました。桜も開花に向かってつぼみが一気に膨らみそうです。今年度も残りわずかとなりました。

振り返ってみますと、昨年は史上初の1年延期となった東京オリンピックが開催されました。
その期間、学事暦が重複しないように、入学式、授業開始が繰り上げられ、ゴールデンウィークの祝日も授業を実施するという特別措置を講じることになりました。例年でしたら8月の初旬までかかる学科試験や実技試験も、オリンピック開催前に終了しました。
新型コロナウィルスの収束には程遠い状況の中で日々息つく間もないスケジュールでしたが、前期が無事終えられた時はほっとしました。
今年度も感染の波が繰り返される中にあって「学び」を止めることなく学修の機会が確保されたことは、ひとえに学生、教職員が一丸となった結果でしょう。

さて、2022年3月12日(土)川越キャンパス・グランツザールにおいて、本学策定の感染防止ガイドラインを厳守しながら、「令和3年度東邦音楽大学・東邦音楽短期大学卒業代表演奏会」が開催されました。
ピアノ専攻の演奏者は大学から2名が出演し、この4年間の最後を飾るにふさわしい熱のこもった演奏を聴かせてくれました。客席からはあたたかい拍手がおくられ、学生たちも忘れがたい経験になったことでしょう。
演奏者と聴き手が同じ空間でこころを通わせる時間になりました。


小菅美穂
J.ブラームス
6つの小品 Op.118 5.ロマンス


曽根原真理
C.ドビュッシー
映像第1集より
1.水の反映 3.運動

卒業代表演奏会が終わりますと、人生の節目となる卒業式を迎えます。在学中、思いもよらない新型コロナウィルスの感染拡大によって、新しい日常の中での学生生活はさぞ大変だったことでしょう。卒業式を終えると2年間或いは4年間でのさまざまな学びの思い出を抱えて、それぞれが旅立っていきますが、学生一人ひとりには、これから向かうべく新たな道を、自分らしく精一杯歩んでいってほしいと心より応援しています。

「第15回トライアルコンサート ~オーケストラとの共演~」が開催されます。

オーディションで選ばれた学生がオーケストラと共演する「トライアルコンサート」の開催が近づいてまいりました。
今回はソプラノ、コントラバス、ピアノの3名がソリストとして選ばれました。
ピアニストとしてこのステージに立つのは、Konzertfach【演奏専攻】3年、平林大翔さんです。東邦音楽大学管弦楽団とグリーグ作曲《ピアノ協奏曲 イ短調 Op.16》を共演します。

本番と同じ会場である川越キャンパスグランツザールにて、オーケストラとの練習がスタートしました。
ピアノを志すものにとって、オーケストラとの共演は大きな目標であり、憧れでもあります。ピアノ協奏曲という分野には大作曲家たちが力を入れて書き上げた名曲がずらりと並んでおり、その多くは非常に高い表現技術と音楽性が必要とされます。また、実際にオーケストラと共演するステージに立つチャンスはめったに巡ってくるものではありません。本番に向けての練習はその一瞬一瞬がすべて貴重なものとなります。

ノルウェイを代表する作曲家エドヴァルド・グリーグ(1843~1907)は、《ピアノ協奏曲Op.16》を25歳の時に完成しました。
当時のグリーグは新婚ということもあり、生活の糧を得ることに追われて多忙かつ落ち着かない日々を過ごしていました。そんな中、1868年夏にグリーグは都会の喧騒を離れ、郊外の田舎町スレレズにて短い休暇を過ごします。共に滞在した大切な友人たちとの語らいの中から作曲へのエネルギーとインスピレーションを得たグリーグは、ほとばしるような情熱を持ってこの傑作を書き上げたと言われています。
平林さんは、本学Konzertfach【演奏専攻】の充実したカリキュラムのもとで3年間にわたって研鑽を積んできました。来るコンサートではその成果を充分に発揮し、このピアノ協奏曲に相応しいスケールの大きな演奏を聴かせてくれることでしょう。

第15回 トライアルコンサート ~オーケストラとの共演~
2022年2月26日(土)13:30開場 14:00開演
会場: 東邦音楽大学グランツザール(川越キャンパス)
チケット: 事前申込制(全席指定)

詳しくは こちら をご覧ください。
皆様のお越しをお待ち申し上げております。

※本公演は、新型コロナウィルス感染防止の観点から、政府・自治体・関係団体のガイドラインに基づいた対策を講じた上で開催いたします。ご来場のお客様にはご不便をおかけいたしますが、ご理解とご協力をお願い申し上げます。

「後期まとめ」に向けて ~短期大学「アンサンブルⅠ」の授業風景より~

新しい年が始まりました。
大学・短期大学は「後期まとめ」の時期に入り、レポート提出や様々な試験に向かうべく、学生たちの表情にもきりっとした緊張感が見てとれます。

さて今回は学科目のまとめの様子をお伝えしようと思います。
取り上げますのは短期大学で開講されている「アンサンブル(ピアノ)Ⅰ」です。
この授業は年間を通して4手連弾の演奏法を研究する演習科目です。
前期・後期各15回、課題となる作品に対してその歴史的な背景や作曲家についてはもちろん、様々なアプローチから内容を検討すると共に、4手連弾の演奏法を実際に合わせる練習を重ねる中で習得することを目標としています。
授業の最終日には文京キャンパス50周年記念館ホールで録音を行うことが恒例となっており、学生たちはそれに向けて緊張感を持って仕上げに臨み、練習にも熱が入ります。

今回の録音は、G.フォーレ作曲《組曲「ドリー」Op.56》、P.チャイコフスキー作曲《組曲「くるみ割り人形」Op.71a》、あと大変珍しい作品なのですが、R.シューマン作曲《小さな子どもと大きな子どものための12の連弾曲Op.85》、各曲からの抜粋で行いました。

学生たちは真剣そのもの、一生懸命さがひしひしと伝わる熱演を披露してくれました。
時間をかけて作品と向き合い、アンサンブルを通してパートナーとのコミュニケーションを深めながら演奏を仕上げる。
授業が終了した今、充実した達成感と満足感を得ていることを願って止みません。

なかなか安心した生活が戻ってこないもどかしさが続いておりますが、どうぞ皆様、ご自愛下さいます様に。
今年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

2021年をふりかえって


気が付けば今年もあとわずかになりました。皆さまいかがお過ごしでしょうか。
昨年の暮れも、一日も早く世界が平穏を取り戻してほしいという希望を抱いていましたが、なかなか新型コロナ感染症は終息せず、不安の残る中でこの時期を迎えることになりました。

しかし、当初未知の面があまりに多かったこの感染症について、これまでに様々なことが分かってきました。社会において感染防止策が定着するとともに、音楽文化、学校教育の現場でも「新しい日常」が軌道にのりつつあります。

昨年は多くの演奏会、セミナー等を中止にせざるを得ませんでしたが、今年は学園の感染防止ガイドラインを厳守しながら、その大部分を再開することができました。実技試験はもちろん、定期演奏会、学内演奏会など、学生たちは多くのステージに向けて取組み、日頃の研究の成果を発表することができました。
中でも、大学、短期大学、大学院の学生たちが力を合わせて作り上げた、東邦ミュージックフェスティバル2021での「煌めき!!ピアノコンサート」は、感動とともに長く記憶に残るものになりそうです。

ピアノダイアリー10月「煌めき!!ピアノコンサートが開催されました。」

学外との交流も再開され、夏には「第14回 東邦音楽大学 東邦ピアノセミナー」を開催することができました。ベートーヴェン生誕250年を迎えた2020年に、祝祭的な雰囲気の中で行われる予定であった内容を、その1年後に多くの参加者にお越しいただき無事終えることができました。

ピアノダイアリー8月「第14回東邦ピアノセミナーを開催しました。」

心残りなのは、夏休みに予定していた「親子のためのピアノオープンキャンパス」を開催することができなかったことです。幼児から高校生まで、親子で川越キャンパスにて音楽大学での一日を体験していただく予定でしたが、緊急事態宣言が発出される状況で、幼児、児童、生徒とそのご家族の安全を考え中止の判断をいたしました。来年こそは安全に開催することを目指して準備を進めてまいります。

今年も予想のつかない状況に相対しながら、私たちは対策と工夫を重ねて教育研究活動を続けてきました。ICTの活用など新しい試みも芽吹いています。来年も学生と教職員が力を合わせて進んでまいります。

2021年もピアノダイアリーをお読みくださりありがとうございました。
新しい年が皆さまにとって良い一年になりますように。

芸術の秋、読書の秋 ~野平一郎先生の著作より


先日まで美しく紅葉していたグランツザール周辺の桜の木が、まるで冬支度を急いでいるかのような装いになりました。

先月のミュージックフェスティバル、大学4年生の八ヶ岳での演奏ビデオ収録、そして短大2年生の沖縄への演奏旅行も無事に終わり、学生達は落ち着いて1月の試験に向けて励んでいるところです。

私には、秋になると口ずさみたくなる詩があります。

秋 (八木重吉詩)

秋になると
ふとしたことまでうれしくなる
そこいらを歩きながら
うっかり路をまちがへて気づいた時などは
なんだか ころころうれしくなる

コロナ禍の中、自然はまったくお構いなしに美しい姿を見せています。
小さなこと、ふとしたことにも心を留め、そこに喜びを持てたなら何と幸せでしょう。
そして重吉のように「なんだかころころ嬉しくなる」という軽やかな心も持ち続けたいものです。

さて、秋は読書の季節でもあります。一冊の本をご紹介しましょう。

今月30日(火)に行われる大学院生特別講座でレッスンをお願いしている野平一郎先生の著書『作曲家から見たピアノ進化論』です。野平先生は作曲家・ピアニスト・教育者として世界的に活躍していらっしゃるだけでなく、静岡音楽館AOIと東京文化会館の芸術監督などの要職も務められ、日本の音楽界を牽引していらっしゃいます。レパートリーはバッハから現代作品まで。ソロだけでなく伴奏やアンサンブルでも欠かせないピアニストです。

この本は、野平先生の途方も無い知識量と豊富な経験を通して、バロックから現在までの作曲家・作品・ピアノ(楽器)の関係が論じられています。まず「ピアノは今、どのような立ち位置にいるのだろうか? 進化の途中なのか、絶頂期なのか、それとも下降線を辿っているのか?」という投げかけから始まり、それに答えるような形で進められます。それを、野平先生は作曲家と演奏者の両方の視点からの興味深い切り口で明快に述べています。それは、私達に多くの作曲家をあらためて見直す機会を与えてくれます。さらに作品を演奏する際のヒントも、たくさん見つけることができるでしょう。
最後に、現在ホールに設置されているピアノはほとんどがスタインウェイかベーゼンドルファー、加えてヤマハかカワイと画一化されているが、この画一化は作品やピアニストにも当てはまるのではないかと危惧しています。その一方でイタリアのファツィオリが伝統と新しいテクニカルを融合した楽器を制作したように、これから新しいスタイルものが生まれてくるのではないかと将来への期待感を滲ませています。
200ページ余の本ですが、読みごたえのある一冊です。ご一読をお勧めします。